表現を生業とする現場にとっては、難しい問題だ。
9月28日に放送されたフジテレビ系「とんねるずのみなさんのおかげでした」の30周年記念特番でタレント・石橋貴明演じるキャラクター「保毛尾田保毛男(ほもおだ・ほもお)」が男性同性愛者を嘲笑の対象にしたとの批判を受け、同局の宮内正喜社長が謝罪する事態となった。
放送から一夜明けた29日、LGBT(性的少数者)団体が、同局に抗議文を提出。抗議文には、番組内で「ホモ」という単語を数度発し、当事者らに不快感を与えたとした上で、「(子供たちの)いじめや無視等につながり、結果として、うつ病や登校拒否、自殺を引き起こすことも指摘されている、命にも関わる重大な人権侵害です」などと記されていた。
宮内社長は、同日の定例会見で「不快に思われる方がいるとしたら、テレビ局としては大変遺憾なことで謝罪しなくてはいけない」と陳謝。同局広報部は、「保毛尾田保毛男」について「あくまでも番組放送30周年ということで本番組の歴史を振り返り、番組の人気キャラクターを登場させた」と説明し、他意はなかったとした。
同団体のホームページによると、今月2日に双方の責任者による「意見交換会」が行われた。団体側は、フジテレビ側に正式な謝罪や過去の放送のデータ提供などを求めており、まだ落としどころは見つかっていないようだ。
私が初めて、「保毛尾田保毛男」をテレビで見たのは中学生の頃。当番組の前身「とんねるずのおかげです」に登場した際のインパクトは大きかった。青ひげに太めのまゆ毛のメークが特徴で、共演者から「ホモでしょ」と指摘されると、「あくまでそれは噂で」と答えるやりとりに思わず笑ってしまった。学校でも話題となり、生徒間で「保毛尾田」のマネが流行ったりもした。
当時は、まだ「LGBT」という言葉が認知されていない時代。少なくとも私の周囲の子供たちの間では、特別な配慮をする気配はなかった。ただ、私が笑ったのは、石橋の誇張した風貌や言い回しといった表層的なものに対してであり、差別するといった意識はなかった。
だが、この「差別する意識がなかった」ことが、今回の騒動の背景にあるのだろう。笑った方がその意識がなくても、笑われた方は傷つく。もしかしたら、30年前の教室の片隅で人知れず涙した同級生がいたかもしれない。
今は、政治家も「ダイバーシティ(多様性)」を声高に訴える時代。渋谷区は2015年から同性のカップルを結婚に相当する「パートナーシップ」と認める証明書を交付。今年のゴールデンウィークに代々木公園周辺で行われたLGBT関係者によるイベント「東京レインボープライド」には10万人以上が参加した。
こうした世間の風潮から、「懐かしのキャラ」が批判の対象となったことは自然な流れだったと思う。ただメディアは今後、こうした事柄にどう配慮して行くべきなのか。
今年6月にBSフジ社長に就任した亀山千広・前フジテレビ社長が今月2日に記者懇談会を開催。今回の騒動の所感を聞くと「難しい。本当に」と渋い表情を浮かべ、番組制作について「今の視聴者の反応を想像しながら、でもこういうことで説明すれば分かってもらえるというところを、ギリギリのところを探るしかない。自分で理屈ができないなら、プロデューサーは(当該シーンを)切らなくてはいけない」と考えを語った。90年代にドラマ「ロングバケーション」「踊る大捜査線」をプロデュースするなど、フジ黄金期を支えたテレビ界の寵児は、時代の空気を敏感に察知しているようだった。
記事の感想
「保毛尾田保毛男」の問題は私も関心を持っていました。
多くの人は、「笑いのネタ」としか言わないかもしれませんが、私の周りにはLGBTで悩んでいる人が複数人います。
その人たちと話す時には、自分が当たり前と思っている事でも、相手にとって当たり前かを考えてから言葉を発するようにしています。
セクシャリティーに関する事は、うつ病に対する偏見にも共通している気がします。
多くの人はうつ病を理解していません。
そのため、本人は悪気が無く「気の持ちようだよ!」「考えすぎなんだよ!」と言います。
しかし、これらの言葉を聞いたうつ病患者は本当に辛く、悔しい思いをします。
LGBTに関しても同様ではないでしょうか?
自分の当たり前や常識は、あくまで自分だけの物であって、万人に共通している事ではないのだという事を理解する必要があると思っています。
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