精神障害者の採用、売り手市場に 雇用義務化前に動く。法定雇用率が2.0%から2.2%に

就職が内定したうつ病

障害者の採用に大きな変化が起きています。うつ病や発達障害などを抱える精神障害者の採用に企業が取り組み始め、一部では「売り手市場」ともいえる状況が出てきているのです。何が背景にあるのでしょうか。

 まず、2018年4月から法律が変わります。企業に義務づけられている障害者雇用の割合(法定雇用率)が2.0%から2.2%にあがります。これまで精神障害者は雇用率の計算対象ではありませんでしたが、法改正で対象に加わります。

 「精神障害者を必ず雇わなくてはいけない」という法律ではありませんが、現実には企業に変化を迫っています。身体障害者は約33万人、知的障害者は約11万人が企業に雇われており、ほぼ横ばいで飽和状態にあるとされます。しかし、精神障害者はまだ約5万人。雇用率を上げようとすれば、精神障害者の採用を増やす必要があるのです。

 企業は準備を進めています。コールセンター運営大手のトランスコスモスでは、ホームページ作成やマーケティングなど様々な部署で約60人の精神障害者が働いています。一度社会に出て、心を病んだ人が多いといいます。気持ちの波が大きい人らに対応するため、定期面談や体調に合わせた時短勤務などを取り入れています。

 トランスコスモス執行役員の古原広行さんは「いい人材は取り合いになる。長く働いてもらうには環境づくりが欠かせない」と話します。人材派遣・紹介会社のリクルートスタッフィングで障害者の就職を支援する染野弓美子さんも「この2年ほどで精神障害者の採用市場は変わってきている。企業が内定を出しても、複数の内定を得ている人から断られるケースが増えている」と見ています。

 精神障害を抱える人の意識も変わってきています。16年度に精神障害者がハローワークに申し込んだ新規求職は8万6000件と、10年前の4.5倍に膨らんでいます。文京学院大学の松為信雄教授は「障害をオープンにして働くという大きな流れがある」と指摘します。

 子どもの頃からパニック障害を抱える鈴木公太さん(仮名)は大学卒業後に普通に就職しました。しかしある日、症状が出て会社を辞めることに。その後、障害があることを明らかにしたうえで今の会社に再就職しました。「体調が悪いときも職場の理解が得られて安心して働ける」と鈴木さんは話します。

 こうした動きが出てきている一方で、3割の企業が障害者を1人も雇っていない現実もあります。人口減少社会を迎える中で、働きたいと願う障害者に少しでも多く応えることは企業の社会的責任ではないでしょうか。

■松為信雄・文京学院大学教授「障害をオープンにして働くのが大きな流れに」

 障害者が働く環境はどう変わってきたのでしょうか。文京学院大学の松為信雄教授に話を聞きました。

 ――障害者雇用は世界ではどうなっていますか。

文京学院大学 松為信雄教授
 「米国をはじめとして世界では『障害者差別を禁止する』という考えが主流です。人権の観点から、障害者と健常者を分け隔てなく採用しようというのです。日本のように、『障害者として特別に採用枠を設ける』という法定雇用率制度をとっているのはドイツやフランスなど少数でした」

 「しかし、ここ数年でその流れが変わってきています。障害者差別禁止の考えに立つと、実際には障害者の採用は進みにくい。『障害以外の理由で採用しなかった』といえば言い逃れできてしまうからです。そのため米国では、日本のような法定雇用率を導入する動きが出てきています。日本もまた、国連の要請に応じて障害者差別を禁止する法整備を進めています。これまで別々だった、差別禁止と法定雇用率の2つの考えが融合してきているといっていいでしょう」

 ――日本では障害者雇用促進法が改正になり、精神障害も義務対象になりました。

 「精神障害者は長く差別されてきました。身体障害者の雇用が義務化されたのは1976年です。知的障害者の義務化は1997年。そこから20年近くたってやっと精神障害者が義務対象になったのです。『精神障害者は何をするかわからない』という偏見がずっと続いてきました。1900年にできた精神病者監護法は精神障害者を家の中に閉じ込めておく法律でしたが、これが1950年までありました。GHQ(連合国軍総司令部)による改正などを経て、福祉の観点から精神障害者が守られるようになったのは1995年のことです。こうした流れの中で雇用の現場でも、精神障害者だけを差別することはできなくなってきたのです」

 ――精神障害の人の意識も変わってきているようです。

 「うつ病や最近増えている発達障害の場合、一度社会に出て働いてから発病したり自分の障害に気がついたりすることが多い。それまで普通に暮らしてきたわけですから、障害者手帳をとることに抵抗感がありました。しかし最近は、手帳を持つメリットを理解する人が増えています。私自身も、精神障害がある人には障害者手帳をとりなさいと助言しています。就職の時に障害をオープンにするかクローズにするか選択肢が広がるからです」

 ――障害をオープンにして働くメリットとは何ですか。

 「職場の人が配慮しやすくなります。クローズにしていると、体調が悪くなっても、それを会社に理解してもらうのは大変です。外部の医療機関に通っていたとしても、その人たちが会社の中にまで入ってこれるわけではありません。しかしオープンにしておけば、そうした外部機関と会社の連携も容易になります。クローズにしたまま、職場でうまくいかず離職や転職を繰り返すと、その後の就職がいっそう難しくなります」

 ――企業側はどのように対応したらよいでしょうか。

 「企業にとって精神障害者を採用するハードルは高いでしょう。それでも法定雇用率が上がっていく中で、避けては通れません。ノウハウがない企業が多いので、そこは『ジョブコーチ(職場適応援助者)』がサポートしていく体制を国が整えています。企業側の努力も欠かせません。精神障害の場合、ストレスに弱いことも多いので、仕事量を調節したり話を聞いたりして目をかける必要があります。キャリアアップの道筋も考えていかなければなりません。働く以上、成長したいというのは健常者も障害者も変わらないのです」

精神障害者の未来は明るいが、現状は非常に苦しい

法定雇用率の改定に伴い、確かに会社の意識は少しずつ変わって行っています。

10年前に比べるとはるかにうつ病などの精神障害者は仕事を得やすくなったといます。

このまま改定が進めば、精神障害者への偏見も少しずつなくなっていく事でしょう。

しかし、現在うつ病に苦しんでいる人の現状はそんなに簡単ではありません。

記事にあったトランス・コスモスを私は知っていますが、賃金は安く業務は結構大変だと以前トランス・コスモスで働いていた人から聞いたことがあります。

つまり、法定雇用率をあげるために、一定数の精神障害者を雇うのですが、そこで安定して働ける人は少ないケースもあるのです。

記事では、企業側の努力も必要だと書いていますが、まさにその通りで、精神障害者への偏見を無くし、病気を理解してあげる事が出来ていない企業がほとんどと言って良いでしょう。

うつ病の職場定着率は極端に少ないと言われていますが、これはうつ病患者が贅沢を言っているわけではないのです。

本当に毎日苦しい中、何とか会社に行って仕事をしようと頑張っています。

しかし、それでも体調は容赦なく悪化してしまいます。

周囲の理解が余程しっかりしていないと、体調が悪化したから休みたいとはなかなかいう事が出来ません。

「またサボりやがって・・・」と言われているうつ病患者は本当に多いのです。

結果として、オープンで就職を決めたけれども数か月で泣く泣く辞めてしまう人が後を絶たないのが現状なのです。

企業に精神障害者の雇用に関するノウハウを教えるジョブコーチの存在意義をもっと真剣に考えて欲しいと思います。

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