うつ病は心の病気と言われていますが、医学的には脳の病気と言う見解が有力です。
厚生労働省のポータルサイトである「みんなのメンタルヘルス」でも、
「うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態です。」と記載されています。
一般的にはまだまだ「メンタルが弱い」「気の持ちよう」や「怠けているだけ」と言った偏見が多いですが、うつ病を脳の病気と捉える事により、より早期に症状を改善する事が可能になります。
脳の機能障害とは
うつ病になると、脳のモノアミン神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが減少します。
シナプス間隙の神経伝達物質が少なく、情報伝達がうまく行えない状態になっているのです。
セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンがバランス良く脳内に存在している事で、精神的にもバランスを取ることが出来ます。
楽しい時は笑い、悲しい時には泣く、腹立たしい時には怒ると言った精神状態はこれら脳内の神経伝達物質がバランスよくあるからです。
セロトニンの働き
セロトニンの働きは大きく2つあります。
- 睡眠の質を向上させる
- 精神の安定を保つ
です。
セロトニンは夜になるとメラトニンになり、寝つきを良くしたり、睡眠の質を上げてくれます。
また、セロトニンにはノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑える働きがあります。ストレスを感じた時に不必要に不安になったりするのを防止してくれます。
ノルアドレナリンの働き
ノルアドレナリンにはストレスによって、緊張を高め、高いパフォーマンスを発揮する働きがあります。
それ以外にも、
- 覚醒作用
- 心拍数や血圧の上昇
- ストレスにより体を緊張・興奮状態にする
- 注意力・集中力・判断力の向上
- やる気・意欲の向上
などがあります。
ドーパミンの働き
ドーパミンは動機に関連が深い事で知られています。
物事を遂行する時には、何らかの理由があり、それにより行動をします。
こういった一連の動作には必ずドーパミンが関与しています。
例えばパーキンソン病などはドーパミンが減少してしまう病気ですが、パーキンソン病になると立ち上がる事も困難になりますし、どのような順番で筋肉を動かせば良いかも分からなくなります。
抗うつ剤の役割
このように脳内の神経伝達物質が減少すると様々な弊害が出てきます。それを補うために服用するのがSSRIやSNRIと言った抗うつ剤になります。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)はセロトニンの再吸収をブロックする事で神経細胞間のセロトニンを増加させる効果があります、
同様に、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンを増やす効果があります。
但し、抗うつ剤などうつ病に使用される薬は全て対症療法に過ぎません。
薬を服薬している間は、効果がありますが、飲まなくなるとうつ病の症状が出てきます。
大切な事は、抗うつ剤を服用する事で人間が本来持っている自然治癒力を最大限に発揮させることにあります。
精神的に安定して睡眠をしっかり取ることで、脳の機能も自然と治癒していくと考えられていて、その期間はおおよそ3か月から6か月と言われています。
抗うつ剤の問題点
しかし、一方で抗うつ剤には問題があります。
前述した通り、セロトニンやノルアドレナリンには効果が確認されていますが、ドーパミンに作用する抗うつ剤が無い事です。
現在医学的に脳内のドーパミンを増やす事が確認されているのは「電気けいれん療法」になります。
平成22年に「独立行政法人 放射線医学総合研究所」が発表した研究報告では、
【陽電子断層撮像装置と高性能PETプロー ブを用いて、難治性うつ病の治療に有効な通電治療法が、うつ病患者脳内のドーパミンD2受容体を減少させることを明らかにしました。
ECTによる脳内神経受容体変化をうつ病患者の生体内で捉えることに成功した世界初の成果です。】となっています。
薬学の分野でもドーパミンに作用する抗うつ剤の開発に取り組んではいますが、現段階では製造出来ていない事を考えると、薬の反応性が低いうつ病に対しては電気けいれん療法が一番有効と言えます。
これらの抗うつ剤がうつ病に大きく効果を発揮する事からも、脳の病気と言う考えは論理的と言えます。
また、抗うつ剤を飲むことを恐れる人がいますが、低下した脳の機能を一時的とは言え、持ち上げる事が出来る抗うつ剤は、うつ病治療に必須と言えます。
脳に外傷を負ってもうつ病を発症
また、心理的ストレスは分かりやすいですが、身体的ストレスでもうつ病は発症します。
具体的には、脳損傷など脳に外傷を負った場合です。
頭部に外傷を負った後には例えそれが軽度であっても、高い頻度でうつ病になると言われています。
また、重症の場合はほぼ100%の確率でうつ病の症状が出てきます。
この場合でも、症状は同じで
- 疲労
- 頭痛
- 記憶力の低下
- 不眠
- 思考力の低下
- 集中力の低下
- 不安・緊張
- 苛立ち
- 焦燥感
などの症状が出てきます。
うつ病では前頭葉の血流も低下
うつ病になると、前頭葉や海馬への血流が滞っている事が判明しています。
血流が滞っているという事は、細胞に必要な酸素や栄養素が十分にいきわたっていない事を意味します。
その結果、脳への血流と直接関係している、頚椎や肩の血流も悪くなり、頭痛、首や肩のコリと言った症状が出てきます。
うつ病によって、低下した脳の機能を回復させるためには、マッサージや入浴、ストレッチなどで血流を改善してあげることも大切です。
光トポグラフィーは脳の血流を調べる
うつ病検査として現在一番信頼性が高いものとして、光トポグラフィーがあります。
頭にヘルメット型の装置を被り、簡単な質問に答えていき、その時の大脳皮質の血中ヘモグロビン濃度変化を計測します。
正確度は7割と言われていて、うつ病以外にも双極性障害や統合失調症の判別に利用されています。
「心の病気」「心の風邪」と言われる理由
このように、現在の医学ではうつ病は脳の病気と位置付けられていますが、世間一般的には「心の風邪」「心の病気」と言われています。
「うつ病は心の風邪」と言われるには理由があり、2000年ごろに抗うつ薬パキシルを販売するために「グラクソ・スミスクライン」と言う医薬品メーカーが宣伝文句として使用した事が原因です。
結果として、軽度のうつ病でも気軽に心療内科を受診する人が増えたと言う事は良いのですが、「うつ病=風邪」と言う軽い印象を植え付けてしまい、深刻なうつ病に苦しんでいる人にとっては周囲の理解が得にくいと言う事に直結してしまっています。
心の病気と考えてしまうと・・・
うつ病を心の病気と間違って捉えると、治療法にも悪影響が出てきます。
具体的には、
- 脳に作用する抗うつ剤なんか怖くて飲めない
- 頭に電気を流す電気けいれん療法なんかが効くはずがない
- 心が弱い事が原因であれば、心を鍛えなければいけない
と言った事です。
脳に作用する抗うつ剤なんか怖くて飲めない
脳ではなく心の病気と捉えると、神経伝達物質を増やす抗うつ剤は怖くて飲めなくなります。
結果として、医師に処方された抗うつ剤を服薬せずに自力で治そうとする人が多くなります。
頭に電気を流す電気けいれん療法なんかが効くはずがない
脳に直接刺激を与える電気けいれん療法は効果がうつ病治療に効果が高い事が知られていますが、心の病気と考えている限り電気けいれん療法がなぜ効果があるのか理解できないため、「怖い治療法」と考えてしまいます。
心が弱い事が原因であれば、心を鍛えなければいけない
本来うつ病にはストレスは大敵です。
しかし、心の病気と考えてしまうと、心を鍛えるために人前でスピーチを練習したり、苦手な人と無理をしてでもコミュニケーションを取って克服しようとしてしまいます。
これは全くの逆効果で、心は鍛えられますがうつ病は間違いなく悪化してしまいます。
うつ病=脳の病気と考えると
一方、うつ病=脳の病気と考えると、脳に作用する抗うつ剤を服用する事がどれだけ大切か分かりますし、脳に電流で刺激を与える電気けいれん療法も積極的に受けようと思います。
また、間違ってストレスをかけるような事も避けられるので、うつ病を早期に改善する事が出来るのです。
脳の休息に睡眠が大切
脳を休息・修復してくれて、免疫細胞を活性化してくれる睡眠はうつ病治療にとって欠かす事が出来ない存在です。
セロトニンの減少によって睡眠障害になる人が多いですが、睡眠薬を飲んででもしっかりと睡眠を取ることが大切です。
良質な睡眠を取るためには、
- 朝日を浴びる
- 適度な運動をする
- 入浴をして一度体温を上げる
- アルコールは飲まない
- 寝る前にカフェインは取らない
- 寝る前のスマホは止める
と言った事が必要になってきます。
脳に直接アプローチする2つのうつ病治療
うつ病治療で脳に直接刺激を与えるものは、日本の医療では2つあります。
- 電気けいれん療法(ECT)
- 磁気刺激治療(TMS)
です。
電気けいれん療法は保険診療なので、高額療養費の対象になっていますが、磁気刺激治療は保険適用外になります。
磁気刺激治療(TMS)
磁気刺激治療とは、磁気を用いてR25野と言う脳の部位に刺激を与える事で、脳血流を増加させて低下した機能を元に戻していく知慮法です。
副作用が少なく、治療後に軽い頭痛や歯痛が起こるくらいで、通院治療が可能なため、サラリーマンでも仕事をしながら治療を続ける事が出来ます。
1クール30回が基本になっていて、週に1,2回のペースで治療を行っていきます。
1回当たりの費用は約2万円~が目安です。
磁気刺激治療は保険適用外なので、全額実費となります。
電気けいれん療法(ECT)
両方のこめかみに電極を当てて、通電する事により人為的にけいれん発作を起こす治療法です。
電気けいれん療法には、副作用の大きい従来の「サイン波」によるものと、副作用のリスクが少ない「パルス波」治療器を使用したものがあります。
また、全身麻酔を行い、身体に不必要な痙攣をおこさせない修正型電気けいれん療法もありますが、修正型電気けいれん療法に関しては麻酔科医が常駐している必要があるため大学病院や総合病院、大規模な精神科病院でしか行われていません。
「うつ病は脳の病気」まとめ
うつ病は脳の病気と考えて治療をする事が大切です。
脳の機能を回復・修復させる睡眠はうつ病治療の中でも特に大切です。
うつ病は脳の外傷でも発症する事があります。
抗うつ剤は低下している脳の機能を補助する役割があるので、しっかりと服用しましょう。
抗うつ剤で効果が出ない場合は、電気けいれん療法を視野に入れましょう。
コメント
[…] 記事にもありますが、うつ病を治す上で大切な視点は、「うつ病は神経伝達物質の減少による脳の病気」です。 […]
[…] 最新の医学では、うつ病は脳の病気です。 […]
[…] 日本ではいまだに「心の病」や「心の風邪」と言う表現をしていますが、医学的には「脳の病気」です。 […]
[…] うつ病は脳の病気なので、一朝一夕に回復はしません。 […]